(2004/9/13 プロパン・ブタンニュース)
(はたの・もとこ=シナネン経営企画部広報室 社内報『えんゆう』編集長) |
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![]() 母からの警鐘 出勤するために家を出ようとしたそのとき、母から電話がかかってきた。「抜けなくなったその指輪。いますぐに切りなさい」。恐怖におののくような声だったので、驚いた。どうやらテレビ番組で、命も危険にさらしかねないことだと聞いて、慌ててかけてきたようだ。 いつから指輪が抜けなくなったのか。 それは定かでないが、8年の結婚生活の間ではずした覚えはない。指が太って指輪がめり込んだ状態はもう日常化していて、とくに気に留めることもなかった。 「婚約指輪や結婚指輪は、どっちの指にするのかな」。中高生の時分からいくどとなく友達と交わした会話。そんなとき、きまってみんなは目を輝かせた。いつか自分の手にも指輪がはめられる。それを夢みている顔だった。夫からこの指輪をもらった時には、愛の証のようであまりにうれしかったから、一生涯はずすまい、と心に誓った。 切りたくなかった。けれども指が紫色に腫れあがり、ズキズキ痛みだすことがあった。それに飛行機に乗ると気圧の関係からうっ血する危険もあるそうだが、数日後に飛行機での出張を控えていた。選択の余地はなかった。ジュエリーショップで、リングカッターという円形のノコギリで切ってもらった。指輪2つで20分ほど。手が急に軽くなった。指にはくっきりと指輪跡があって、やけどみたいに皮膚が赤くただれていた。 その店では、こうして指輪を切る客が月に1人は来るそうだ。腫れた状態で突き指などしたら大けがにつながりかねないし、急な手術が必要なときは支障をきたす。つまり指輪をしていると手術時に電気メスを使う場合、指輪の部分に高圧の電流が流れやけどをしてしまう可能性がある。なるほど抜けなくなった指輪は大きな危険をはらんでいる。聞けば聞くほど自分の無知さと、自覚のなさを知らされた。 ふと、20代でダイエットしたり、矯正下着をはめたときに、同じように心配してくれた母を思い出した。当時はうるさく思った。それから十数年。相変わらず警鐘を鳴らす心配性の母に、とっても感謝している。 |