(2002/5/20 プロパン・ブタンニュース)

[視点]  どうなる放出基準の弾力化 
重い民需負担「平時に活用を」 

 わが国は1989年に輸入量の50日分にあたる約200万トンの民間備蓄を達成している。しかし、90年の湾岸戦争時に輸入が一時途絶、これを教訓に国家備蓄構想が浮上し、92年に石油審議会LPガス部会が正式に提言。これを受け、翌年以降「2千億円プロジェクト」(5基地・150万トン)として推進が決まり、9日その第1号として七尾基地の着工が始まった。
 備蓄強化は安定供給の拡充を願うわが国LPガス業界にとっては大いに歓迎されることである。だが、一方では今なお「放出基準」と「投資コスト回収」をめぐる論議がくすぶっており、すっきりしない。
 放出基準については昨年、いったん業界、行政とも「輸入価格高騰時の冷却策」にも適用できるよう運用拡大の方向を模索した。だが、結果的には効果を疑問視する見方があるうえ、LPガスは国備5千万キロリットル、民備70日(約4千万キロリットル)の石油と違って備蓄量が少ないし、製品劣化もないとして運用弾力化が見送られた。しかし、国際需給の緩和や、IEA(国際エネルギー機関)での平沼赳夫武夫経済産業大臣の石油備蓄放出弾力化発言などを受け、今後再燃することも予想される。
 9日の祝賀会では谷本石川県知事が「(地元としては)いざ鎌倉という緊急時だけにこだわらず、平時にも活用できるようにしてほしい」と発言し、話題になった。地元経済、雇用にも配慮がほしいというわけだ。
 一方、備蓄コスト論議では、今回の国備こそ「元売としての責任意識から行った、リターンを期待しない投資である」(河合正人・日本石油ガス社長)が、民備では適正な投資サイクルさえままならぬ窮状にある元売にとって、流通段階でのもう一段の理解がほしいところ。そのうえ、こうした安定供給の充実は元売の価格折衝(値上げ)にマイナスにこそなれ、プラスに作用することはない。
 しかし、「LPガスの民備達成からもう十数年。そうした学習段階はとっくに終えている」(福井健二郎・三井石油ガス販売専務)という声もある。これは、「(元売の)普段の姿勢こそ大事」(同)であることを意味し、国内需給が緩む中にあっては各社とも被害者意識から脱却し、一層真剣に折衝に臨まないと収益好転はさらに遠のくことになりかねない。
 LPGは8割を輸入し、さらにその8割を中東に依存しており、供給脆弱性がたびたび指摘されてきた。エネルギーボーダーレス時代に向かう中で、備蓄体制の拡充が進むことは、ともあれLPガス業界全体に大きな意味があることを現実の市場でも生かすようにしたい。