客の心を掴んだ赤いカーネーション
伊藤忠エネクス社長
小寺 明氏


ウエーブ・風 話題と肖像画/ナリケンがゆく <194>

 今年6月に伊藤忠エネクス社長に就任した小寺明氏は、昭和45年に神戸大学・経営学部を卒業して伊藤忠商事に入社、繊維グループ企画統括室長、テキスタイル貿易部長、テキスタイル事業部長、平成14年に常務執行役員・繊維カンパニーエクゼクティブバイスプレジデントを歴任した。同16年に伊藤忠商事代表取締役常務、金融・不動産・保険・物流カンパニープレジデントに就任するまで34年間、繊維一筋だった。34年のうち18年間は、ブラジルに6年、香港に7年、イタリアに5年駐在した。国内の16年間は大阪で14年間、あとの2年は東京で前記の金融・不動産・保険・物流カンパニープレジデントである。小寺社長のキャリアからも明らかなように繊維事業に詳しく、海外駐在も長く国際的センスも優れていることがうかがえる。まず社長就任の感想を聞いた。
中期ビジョン「創生2008」の実現
 新会社法が施行され、社長のリーダーシップが問われる時代である。責任を痛感している。これを全うするには努力と勉強しかない。弱音を吐いてはいられない。わが社は全国に約2,200店舗のCSを持ち、約120万世帯のお客様に年間100万㌧のLPガスを供給している。これは商社として大きな力である。社内外の力を結集して戦略を構築し収益に結びつける。そして当面の目標は「創生2008」(2008年をメドとする経営目標)の実現である。
 自分は繊維事業の商社活動に長く携ってきた。繊維事業も綿花を輸入してこれを製品化して販売する。産地が不作だと原料の綿花の相場は上がる。今度、石油やLPガスを扱うのだが、繊維も石油製品も日常商品である。違和感はない。
客の視線で考える消費者満足
 社長は海外駐在が長く、外語にも通暁しているのだろうと聞いたら、入社して研修生時代はブラジルだった。ブラジルはポルトガル語である。そしてイタリアに行ったが、イタリア語もポルトガル語と同じラテン系の言語で比較的楽に入れた。香港は英語が通用する。三つの国で繊維産業と付き合って来たのだが、90年代の初めにイタリアに赴任した小寺社長は、日本の繊維産業は強いと信じていたのに実際はイタリアに負けている事実に驚きを隠せなかった。その答えは、わが国の繊維産業は安いコストでたくさん生産する効率を高めることに主眼を置いた。これに対しイタリアは客の満足を追及するにあった。
 そのころ日本からイタリアの繊維産業の調査・研究に大学教授と数名の女性研究者の一行を案内してミラノの繊維事業者を訪ねた。そこではスカーフ用のシルクの生地に捺染を施していたが、10色の捺染をもう2色増やして12色にして客の満足を得る努力をしていた。日本だったら効率を上げるために2色減らして8色にするところである。客が満足する色づかいを追求したところにイタリアが日本を抜いた秘密があったのかと眼を開かされた、と調査チームは述べた。このときミラノの捺染メーカーの社長が調査チ ームの女性に真っ赤なカーネーションをプレゼントしたのは、象徴的であり印象的だった。
オール電化は脅威だが
 オール電化は脅威であるが、電化反対を叫んでも実効は挙がらない。安全性、環境問題、料理をしたときのおいしさ等、消費者に選ばれるための説明や努力が肝要である。客に理解してもらう。そのためには客の視点で考えねばならない。効率と効果という点からも今の仕組みのままで百の効果が上がるとは思えない。50打ったら100の効果が挙がるようにせねばなるまい。過当競争による客の奪い合いの構図は構造変化が必要である。今それを考える時期がきている。国のエネルギー政策でもLPガスは無くてはならぬ存在である。LPガス、都市ガス、電気それぞれのベストミックスを消費者とともに実現したいものである。
対談の結びに
 小寺社長は、対談の結びにCSR・コンプライアンス体制の構築、その着実な推進を語った。CSRとはコーポレート・ソーシャル・レスポンシビリティーの略である。コンプライアンスは法令順守である。それには次のように記されている。
 経営理念=社会と暮らしのパートナー。事業領域=社会インフラとしてのエネルギーから、人を育み、くらしと心を豊かにするエネルギーまで。企業文化(コーポレート・ブランド)=「得」がなければ企業の未来はない、「特」がなければ選ばれる企業になれない、「徳」がなければ企業・企業人としての資格はない。社員の行動規範=有徳/信義・誠実・創意・工夫・公明・清廉。グループ行動宣言=伊藤忠エネクス並びにグループ会社の役員、社員を対象とし、行動規範である「有徳」を常に意識しながら、良識ある企業人・社会人として日常の業務に当たることを宣言するものであります。
 CSR・コンプライアンス体制を語る小寺社長の表情には並々ならぬ決意がうかがえた。 

プロパン・ブタンニュース/石油化学新聞社(C)