プロパン・ブタンニュース2001/11/12
(石油化学新聞社/www.sekiyukagaku.co.jp)
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電磁波は限りなく「黒」

○…先月二十八日の朝日新聞朝刊に国立環境研究所による「メラトニン仮説」追試の記事が掲載されたので、早速、研究者である同研究所の石堂正美主任研究員から論文を取り寄せた。細胞レベルの研究成果であり、今後固体での研究が待たれるものの、精密な実験で明確にメラトニンのがん抑制作用が電磁波で抑制される結果を得たことは、電磁波の人体への影響が従来のグレーゾーンから「黒」へと近づいたことを示しているといえそうだ。
 メラトニンは光周期情報を伝える重要なホルモン。乳がん細胞(MCF−7)の増殖を抑制する作用を持つことはこれまでの研究で確認されている。また乳がんに止まらず抗発がん作用を持つことも示唆されている。この作用が低下することで乳がんをはじめ種々のがんが増加するというのが「メラトニン仮説」だ。
 石堂研究員らは追試で、電磁波がメラトニンにどのようなメカニズムで影響を及ぼすのか調べた。メラトニンのがん抑制情報は、細胞膜の受容体、Gたんぱく質、アデニレートサイクレース(調節系)と伝わっていく。研究ではGタンパク質とアデニレートサイクレースの連結部に磁界が作用して、連結機能を阻害することが明らかになった。
 このように細胞レベルでのメラトニンの抗発がん作用阻害のメカニズムがはっきり示されたのは「世界でも初めて」(石堂研究員)という。今後は磁界感受性細胞をヌードマウスに移植して、個体レベルで検証していく予定という。これにより電磁波の健康に与える科学的な裏付けがより明確になる。
 石堂研究員らは今回の発表に先立ち、今年二月に岩波書店の『科学』に「電磁波の健康リスク」と題する論文を記載している。それによると、電磁波問題は「事後対策ではなく、予防的対策が課題」と訴えている。電磁界のリスクのように、疫学研究ではリスクが示唆されるが、動物実験では確認できない場合、あるいはダイオキシンや環境ホルモンのように過去、ほとんど知見がない物質や評価が難しいものには、「予防的なマネジメントにつなげることが求められる」という。
 論文はさらに、とくに小児白血病と電磁波との関連についての疫学研究に触れて、「否定的な結果と肯定的な結果の両方がある」としつつも、「全体としてみるとある程度一貫性のある傾向が示唆されている」とも踏み込んでいる。
 石堂研究員らの研究は、生活環境中のマイクロ・テスラ(μT)レベルの超低周波の細胞に及ぼす影響に関するものだ。国際非電離放射線防護委員会やわが国の産業衛生学会は50〜60ヘルツの磁界では100μT程度までは安全レベルだとしてガイドラインを定めている。しかし今後の研究成果いかんでは見直しを迫られることもありそうだ。
 LPガス業界は電気との対抗上、電磁波問題を持ち出して来た経緯がある。それが消費者にガス業界のエゴを臭わせたこともあるようだが、電磁波に関する注意を人々に喚起することは、業界人としての立場以前に必要なことかもしれない。

プロパン・ブタンニュース2001/11/12 (石油化学新聞社)

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