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(2004/10/4プロパン・ブタンニュース)

鹿島液化ガス共同備蓄社長
山田 豊氏
保安なくして経営なし

 鹿島液化ガス共同備蓄社長の山田豊さんの著書「これからの企業経営―古葉野球に学ぶ」と「経営と保安」(監督の眼からみた保安の心)を懐かしく読み返した。前者は昭和60〜61年に山田さんが広島通商産業局総務部長時代に中国地方の経営者を対象に書いたものである。後者は平成元年末の出版で、このとき山田さんは通商産業省の立地公害局保安課長だった。保安の確保という視点から前著を再構築し、古今の多くの識者の言を引用して全国の経営者、中堅管理者に「保安なくして経営なし」「保安なくして発展なし」「保安の確保に終着駅はない」の思想を熱心に説いた著書である。
 保安の確保を図るうえで野球のチーム・マネジメントと対比させながら経営トップの果たす役割を「経営のトップたる者は、目先の利益に左右されることなく、時代の流れに即応した大局観を見失わないことが肝要」と述べている。
宝の基地となる鹿島共備
 鹿島液化ガス共同備蓄は、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構=50%、岩谷産業=40%、コスモ石油ガス=5%、昭和シェル石油=5%の株式保有で平成3年設立、貯蔵設備(低温タンク)22万5,000dで平成6年に操業を開始した。今年で10年が経過した。その間、LPガス総需要の80%を輸入にたよるわが国のLPガス供給事情のもとで民間備蓄50日分の一翼を首都圏で担う大きな役割を果たしてきたが、巨大に過ぎるインフラのコスト負担は過大だった。それが最近、明るい展望が開けてきたのである。
 @操業して10年経ち減価償却が減り負担が軽減してきた。A石油公団から10年返済で借り入れた400億円の返済もこの8月ですべて終わった。これまでの金利は4%台だったが、民間銀行の金利は2%台、金利負担が大幅に軽減した。BLPガスの民間備蓄に加えて国家備蓄の神栖基地20万dが来年12月完成する。これは鹿島共備に隣接し、これまで巨大に過ぎた鹿島共備の桟橋等インフラの有効利用ができる。基地運営業務の受託料は年間数億円が見込まれる。これらは鹿島共備の株主各社の負担を軽減することになる。宝の基地に変貌を遂げ始めている。このように時代の推移の中で評価が変わる。岩谷直治名誉会長の判断の正しさ、先見の明と言うべきである。
 昭和63年5月に保安課長に就任してマイコンU、ヒューズコック、ガス漏れ警報器の3点セットの装着運動を自主保安で始めた。日連の幹部からマイコンメーターは2万円するんだぞ、これを2,500万世帯につけると5,000億円の投資だ。倒産企業が続出するだろうと言われた。倒産は出なかった。むしろお客から喜ばれた。63年9月9日、東京・千代田区の東条会館で「安全機器普及促進全国決起大会」が開催され、そこで山田保安課長は、経営の中に保安という哲学を持ってビジョンを構築してもらいたいと講演した。北海道から沖縄まで各地に飛んで「保安なくして経営なし」を説いて行脚した。官が旗を振った運動がこれほど大きな波をうった例を知らない。その結果、LPガスの年間事故発生件数は、四百数十件から100件を割るに至った。それは安全機器装着件数に比例して連動していることが明らかになった。この実証的数字を見て今さらながら「数字は力なり」を実感したと言う。
岩谷名誉会長からの書簡
 全国行脚の1つ、高圧ガス保安協会の大阪支部で自主保安の重要性について講演をした。1時間ほど話をして壇を降りたとき、後ろの方でぬくっと立って、大変いい話を聴かしていただいた、と言う方がいた。そのご仁は、名誉会長の岩谷直治さん(当時85歳)であった。山田さんは、このとき初めて岩谷会長とお会いしたと言う。この話にはさらに後日談がある。一週間後、岩谷会長から毛筆で巻紙に認められた書簡が山田さんにとどいた。そこには自分の創業の精神も、経営の方針も「保安確保が営業の原点」「保安なくして発展なし」だと述べてあった。山田さんはこの書簡を何度も読むたびにこういう業界人もいるのだと元気づけられると言う。
 こうした岩谷直治名誉会長とのご縁もあり、山田さんは通商産業省を退官後、平成9年6月に岩谷産業に再就職、本年6月までの7年間にわたり役員を務められた。この間、名誉会長の経営理念である自主保安を大切にしながら、事業の拡大をはかるという企業風土の向上に多少なりと貢献できたのではないかと自負されている。
 LPガス業界は、オール電化攻勢で苦境に立たされていると言われているが、保安を大切にしながら、消費者と対話し信用を勝ち取っていく心意気、創業の原点に立ち戻ることが何よりも優先されるべきではないかと訴えている。


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