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(2004/3/1プロパン・ブタンニュース)

岐阜液化ガス社長
濱本 巖氏
お客様に顔を向けた営業

  岐阜液化ガス社長(平成十五年就任)・濱本巖さんは、今年の「年頭の辞」で、お客様に顔を向けた営業、経営の徹底的スリム化、環境保全活動、そして保安の確保の四つの課題を提示した。この「年頭の辞」は間然とするところがない。これを引き写しておけばよいのであるが、それではインタビュー記事にならない。濱本さんがCS(顧客満足)を説いたくだりは、濱本さんが東邦ガス入社このかた歩んできた経験によって語られ、教訓に富み印象的だった。それは「年頭の辞」の第一に掲げた「お客様に顔を向けた営業」に他ならないのであるが、ここから始めよう。
市場志向の営業
 平成十三年に岐阜ガスの社長になるまで濱本社長は、東邦ガスに四十年ほどいた。特に天然ガス導入以降の二十年の変化は大きい。超低温のLNGを搬入・貯蔵し、単に海水と熱交換するだけで都市ガス化できるのであるから従来の生産の概念は消滅し、新規の需要領域を如何に広げるかの営業重視の経営に変化した。このような都市ガス事業の大変革の中で濱本さんはその中枢にいて天然ガス導入の基本計画から中部電力との共同基地建設・運営までをやり遂げ、昭和五十三年には営業に転じてビル空調、地域冷暖房、産業用などの新規需要開発と拡販に取り組んだ。
 五十三年、空調・住設チ ームリーダーだったころ、ガス吸収式冷温水機は、建設省で認知されていない日陰の子の存在であった。当時、未開の市場であった空調機器メーカーや設計事務所等のサブユーザーと強力な人的ネットワークを構築することによって、市場実績を積み上げる一方、東京ガス、大阪ガスともども建設省にアプローチし、「共通仕様書」に掲載されることによって、やっと世に認知されたという。そして、その時点で将来のコージェネレーションにつながるガスエンジン・システムを刈谷市の閑静なシティーホテルに業界に先駆けてビルトインするなどその対応は先駆的で前向きである。
 また、スリーマイルアイランドにおける原子力発電所に起因する点検義務から、今では考えにくいことであるが関西で夏期冷房の電気からガスへの動きがあり、それを受けて中部電力と共同でPRパンフレットを作成している。こういった動きが引き金になって、総合エネルギー需給の観点からガス空調優遇施策が閣議決定された。濱本さんは営業に転じてすぐ中部電力との間で営業部門トップによる「電気・ガスエネルギー連絡協議会」を発足させている。協調すべきものは協調していく姿勢で、そのためには常日頃意思の疎通をはかることが重要と考えているからだ。共同パンフ作成も、その時点で時代の流れに沿うものであるし、ひいてはJRセントラルタワーズや中部国際空港の地域冷暖房プロジェクトにもつながっている。
 名古屋を代表するこの二つのプロジェクトはいずれもガスタービンコージェネを中心とする利用者にとっての最適システムであるが、計画から運営まで両社が協力して実施している。これらは客のニーズを第一にいかにしたら客のメリットが得られるか、市場志向の営業である。構造改革・規制緩和の嵐が吹き荒れ、エネルギー間の競争が激化する昨今、市場に近い営業の重要性はますます大切だと言う。
セグメント別に重点投入
 LPガス事業は地域産業の最たるものだ。客の傍にいる。これが何と言っても強みである。それなのにお客の方を向かないでサプライの方に向いている。LPガス事業者は企業規模が小さいのは弱点であるが、地域の情報を糧(かて)にして、やろうとすることが明確ならば、どことでも容易にネットが組めるはずだ。自分の弱いところは克服して自分の強いところを伸ばしていけばよい。CS(顧客満足)とは、お客さんのニーズは何かが分かった上での提案でなければならない。市場志向の営業とは、自社が持っているものをどの客層に重点的に投入するかである。客の囲い込みということが言われるが、どういうことをどの客層に提案するかである。「すべての顧客の満足を得ようとするとすべての顧客の不満を買うことになる」という警句がある。個別あるいは層(セグメント)別に重点を明確にした営業展開が重要と指摘する。
自然に同化した老夫婦の姿を見て、感あり
 年頭雑感の終わりに次のような一節がある。大型の休暇を得て奥さんと二人でニューヨークからカナダのトロント、バンフ、レイクルイーズそしてビクトリアと旅をしたときの話である。「ニューヨークではブロードウエーのミュージカルやメトロポリタンオペラなど世界のトップレベルの舞台を堪能し、雄大なナイヤガラに驚嘆し、そして神が創り給うた傑作の一つといえる美しい山中の湖レイクルイーズで、早朝、湖畔のベンチに老夫婦がひっそり寄り添っているのを心にとどめて、地元の観光バスでカナディアンロッキーへ。壮大な氷河に時を忘れ、夕方ホテルに戻ってくると、老夫婦が朝と同じ姿でそこに座っていた。私たちは小ざかしくも動き回って自然に感動したつもりでいるが、彼らは自然と共に存在し、自然に同化して時を過ごしている」と述べている。同感を禁じえない。




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