ウェーブ・風  話題と肖像画 ナリケンが行く

(2003/11/24プロパン・ブタンニュース)

池見石油店社長
石塚與喜雄氏
スルメの如く、噛めばかむほど味が

 函館の池見石油店の社長・石塚與喜雄さんは、函館で「ストーブの記念日」を制定した実行委員会の委員長である。わが国で初めてストーブが製作されたのは函館だった。安政三年(一八五六)黒船が函館に寄港したとき、船上にあったストーブを武田斐三郎(あやさぶろう)がスケッチして鋳物工・目黒源吉に作らせた。石塚さんは、そのストーブを昭和六十三年に百三十二年ぶりに復元させて「高田屋嘉兵衛資料館」(注1)に展示した。それ以来毎年十一月二十五日を「ストーブの記念日」と定めて火入れ式を行ってこれを顕彰し、ストーブの安全普及のよすがとしている。北海道開拓は寒さとの闘いであり、ストーブの出現によって越冬が可能となり、その使命を果たせたのである。石塚社長は自分の本業がエネルギー関連事業であることから「ストーブの記念日」を制定して、今年は十六年目の記念行事だと言う。
 (注1)「高田屋嘉兵衛資料館」は、昭和六十一年に石塚社長の肝いりで函館市民の有志によって開設された。高田屋嘉兵衛は明和六年、淡路に生まれ、水夫から身を起して日本近海の航路を開いた後に幕府の御用船頭となった。ロシアとの国際紛争も解決した。函館に縁が深く、造船、埋立、道路改修事業等を行って今日の函館の基盤を築くのに貢献した。その高田屋嘉兵衛造船所跡地に「高田屋嘉兵衛資料館」はある。
エネルギーに真心を添えて
 「ストーブの記念日」にちなんで石塚社長に今年のストーブの売れ行きはと問えば、石油とLPガスのストーブが五〇対五〇で二十五号と十六号が中心である。灯油の暖房・給湯ボイラーは前年比一四〇%、ノーリツのものを四百台ほど販売した。灯油の販売量は一万二千`gだった。暖房のオフシーズンに灯油ストーブをお預かりしてメンテナンスをする。三百台余あったろうか。メンテ費用は二万〜二万三千円程度である。
 LPガスはどうかといえば、次の三つの表を示して説明してくれた。表1で池見石油店が守備している市場規模が分かる。表2は池見石油店のLPガス顧客数及び販売数量である。表3は池見のバルク設置状況である。表に若干の注を施しておこう。
 (注2・表1の注)都市ガス供給世帯=約七万戸、LPガス世帯=約八万戸、池見石油店の供給世帯=九千七百戸(池見のシェア一二%。南茅部、鹿部、木古内地区を除く)、池見石油店の灯油、SSの顧客は約五千戸である。
 (注3・表2の注)表2の卸店4は文字通りLPガスを卸すだけで、SC13は消費者まで配送してあげる卸先である。
 (注4は表3の注)表にしてしまうと味気ないが、アパート34、製造業30、飲食店23などの数字を見ていただきたい。それは毎朝の朝礼で唱和する「エネルギーに真心を添える」の健気な営業努力のたまものに他ならない。
学徒援農隊のルーツ
 石塚與喜雄さんは、函館の海産物の昆布かスルメのように噛めばかむほど味がでる御仁である。石塚さんと一緒に筆者はかつて中国旅行をした。そのとき石塚さんは北京でも上海でも行く先々の交歓の場で函館の昆布の話をした。函館の昆布が舶載されて中国のどこまで行ったかを検証したかったようだ。台湾を経て青島までは行ったらしい。このように郷土・函館の歴史と町興しに熱心である。前述の高田屋嘉兵衛資料館もそうであるが、そのほど近くに石塚さんが始めた昆布館もある。最近は氏の函館商業高校時代に自身もそれに身を投じた「学徒援農隊」のルーツを探り、全国学徒援農本部を組織して資料づくりに励んでいる。長野県や九州各県の北海道援農学徒の名簿もでき、今年七月にはかつての援農学徒の後輩たち、長野県須坂園芸高校と更科農業高校の生徒たちが石塚さんの学徒援農本部の呼び掛けに応じて北海道での農作業や昆布干しの体験学習をした。そして石塚さんは長野県に出かけて彼等に講演もした。
函館大火の教訓
 新装なった函館駅に出迎えてくれた石塚社長は、会社に向かって運転しながら函館の大火の話をした。昭和九年三月二十一日の夕方から翌朝にかけての函館の大火は、二万数千戸を焼き払い二千人からの死者を出した。火事の話を聞きながら寺田寅彦の「函館の大火について」という随筆があったことを思い出して石塚さんに読んだかと聞いた。読んでいないと言うので送ってあげると約束した。これを読めばこの行動派の社長はまた何ごとかを始めるに違いないと思った。そして啄木の『一握の砂』の中にあった「函館の臥牛(ぐわぎゅう)の山の半腹の碑の漢詩(からうた)もなかば忘れぬ」「港町(みなとまち)とろろと鳴きて輪を描く鳶を壓あっせる潮ぐもりかな」を口ずさんだ。

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