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(2003/3/24 プロパン・ブタンニュース)

新コスモス電機社長
重盛徹志氏
センサー開発は平和産業

 新コスモス電機の重盛徹志社長は平成13年、会社創立40周年を期に前社長の笠原理一郎氏からバトンを受け継いで社長に就任した。氏は昭和46年の入社である。それまでは北大大学院理学研究科で物理学を専攻して博士課程の単位を取得した学究である。
 高性能で安定した品質のセンサーを量産してコストダウンを図り、警報器の普及をしようと若い人たちが集まってやっている新コスモス電機を紹介され、大いに興味を覚えて就職したと言う。
 重盛さんは可変抵抗器メーカーだった新コスモス電機がどのようにしてガスセンサーメーカーへの道を歩み始めることになったかを話してくれた。
 それは重盛さんがこの会社に来る以前のでき事なのであるが、今は亡き前社長の笠原さんがその発見時の驚きと歓喜を自分自身の経験のように話す。その当時を知る社員もその後に新しく入社した社員も自分たちのルーツについて共通の認識を持っているのだろう。これが企業の風土と言おうか、企業文化なのだろう。笠原さんのお顔を思い浮かべながらお話を聞いた。
会社の運命を変えた大失敗
 新コスモス電機創業直後の昭和35年ごろ、ソリッド型可変抵抗器を開発した。試作品は放送局や大手家電メーカーから好評で迎えられた。
 笠原社長(当時)は、阪大工学部通信工学科出身のエレクトロニクスの専門家である。新製品はボリュームコントロールの心臓部の導電性炭素微粉末を固定する材料をベークライト・ワニスからエポキシ樹脂を使った炭素被服型抗体に変えた。それはテレビ用に低ノイズを実現し、耐摩耗性も高く自信作だった。
 出荷直前に抜き取り検査をすると、本来なら1キロΩであるべき抵抗値が50キロΩとでた。笠原は腰が抜けるほど驚いたが、狼狽するだけではなく、技術者らしい冷静さでその因果関係を追究した。ボリュームのシャフト部分についたグリースを有機溶剤のトルエンで拭き取ったとき、トルエンが気化してその蒸気で抵抗値に狂いが生じたことが分かった。そこで笠原は考えた。トルエンの蒸気(ガス)が抵抗体に吸着して、エポキシ樹脂が膨潤を起してカーボン粒子間に電流を流れにくいものにした。その結果として抵抗値が高くなったのである。これはひょっとするとガスに対して敏感に反応する抵抗体を開発できるのではないかと考えた。
 昭和36年4月から有機ガス敏感性抵抗体の研究に取り組み、38年に家庭用可燃性ガス警報機A―1型が誕生した。翌39年には同A―3型を発表した。40年にはこの接触燃焼式検知器でCOやベンゼンなど可燃性有毒ガスの検知器開発のために通産省の研究補助金の交付を受けた。その成果は42年にXP―301型自動吸引式検知器を生み、44年には世界初の半導体ガス検出素子を応用したガス漏れ警報器CZ―102を開発したのである。
「みはり」は岩谷直治社長の命名
 半導体センサをー用いた家庭用ガス漏れ警報器CZ―102の商品名は「みはり」である。その命名者は、岩谷産業の岩谷直治社長(現在、名誉会長)である。岩谷社長はLPガスの販売は同時に安全を売らねばならない。CZ―102は家庭の安全の「見張り役」だから「みはり」と名付けたのである。岩谷産業は「電気にヒューズ、ガスには“みはり”」のキャッチフレーズで淀川長治、丘みつ子、浜木綿子等が登場するCMで大々的に宣伝した。笠原の技術者としての信条「シンプル イズ ベスト」は、一ボルトの電圧とセンサー、それにトランスとブザーがあればよい。これによってメンテナンスフリーの検知器を、そしてコスト削減が図れるとする笠原イズムと岩谷産業の販売力は相まって「みはり」は製造販売台数1800万台以上という空前の数字を実現した。
赤福の杉函も嗅ぎわける
 「みはり」の成功は会社の発展にとってエポックメーキングであったが、そこに止まってはいなかった。昭和46年に北大から入社して開発プロジェクト室長の重盛徹志(現社長)は、LPガス以外の都市ガス用センサー、石油精製工場や石油化学コンビナートの炭化水素、製鉄所の溶鉱炉、半導体工場で使われる特殊材料ガス等に通じるセンサー、果ては宇宙ステーションの快適環境のためのセンサーまで手がけた。
 さらに伊勢の赤福の話をしてくれた。赤福は杉の函に詰められているが、数ある杉函に独特の匂いがするものがある。現在は鼻のきくおばさんが検査に当たっているが、このセンサーにもニーズに応えたと言う。中国には上海に工場を作って上海コスモスが家庭用警報器を現地生産して、年間2万〜3万個作っている。上海のホテルで重盛社長の夢に現れた笠原会長が中国からガスもれ事故をなくそうと言うではないか。そしてさらにわれわれの仕事は、戦争や地震では駄目だが、平和には役立つと言った、と話してくれた。
 

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