(2004/4/26 プロパン・ブタンニュース)

SATOKO
(ピアニスト・本名=岡山聡子)

 エンジョイ倹約生活

 フランス人は大変な倹約家とよく言われる。少々ケチとも見えるが、特に節電に関してはプロだ。まだ家計を切り盛りする立場にはないためか、今まで私は節約という意識を全く持っていなかった。家中を明るくしておくのが好きなため、フランスに来てからずいぶん戸惑った。
 一時期、エッフェル塔のすぐそばにあるアパルトマンでホームステイをしていたことがある。私専用のバスルームまであって快適だったが、その家のマダムも電気には厳しかった。ある夕方、部屋の明かりをつけて本を読んでいたところ、マダムが来てパチンとスイッチを切った。まだ明るいから必要ないという。確かに日は沈みきっていないが日本でならもう電気をつけなさいと言われるぐらいの明るさだ。また、カフェのトイレは自分でスイッチを探さなければいけないし、建物の階段やホテルの夜の廊下だって真っ暗というのは日常茶飯事。おかげでいつも手探り状態だ。
 夜のパリは東京のように一晩中ネオンがキラキラしているのかと思えばとんでもない。全体に闇が濃く、街に灯るオレンジの街灯には郷愁が漂っている。ヨーロッパはどこもこんな感じだから、最近は日本が異様に明るすぎるのだと思えてきた。
 明るさといえば谷崎潤一郎著の『陰翳礼讃』に書かれている昔の日本文化に想いが行く。暗い日本家屋、暗がりの中でこそ映える漆器や障子の白々とした明るさ、暗がりの中に美しさを求めるというのがとてもロマンティックに思える。
 このところパリの薄暗い空間に慣れてきた私は木造の日本家屋ではないが、古さでは負けない石の家で現代の暗闇生活を満喫している。バスルームにキャンドルを灯して音楽を聴きながらお湯につかり、夕食は一つの間接照明とキャンドルの明かりで食べてみる。すると五感が敏感になるのかいつもより美味しく思える。う〜ん。なかなか暗闇もいいものだ!倹約とロマンティシズムって案外同じ所にあるのかもしれない。