伊藤忠エネクスの九州支社長で取締役兼専務執行役員の末安秀士さんは、全国ＬＰガス卸売協会九州地方本部会長であり、また全国ＬＰガススタンド協会九州地方本部長でもある。末安さんは昭和３７年に伊藤忠燃料に入社以来４２年間、金沢支店長として３年、中・四国支社長として一年、都合４年間は九州の外で働いたが、あとはすべて九州での活動だった。主として石油の営業だったが、ＬＰＧ業界にも顔が広い。筆者は博多での末安さんの取材を補うために東京に戻ってからも伊藤忠エネクスの末安さんを知る人々から補足取材をした。末安さんが寡黙で誠実、客には親切に対応するが、部下には厳しく、妥協をしない人というのが共通の末安像だった。そういう末安さんの仕事の進め方を今は亡き吉田亨・前々社長は大いに評価したという話も聞いた。吉田社長は伊藤忠商事で日本の自動車を米国など外国にたくさん輸出した人である。吉田さんのような経営者から認められ、また客から好かれる末安さんは山歩きが趣味だという。
どんな山に登ったかと訊ねたら、金沢支店長時代は立山（大汝山）３０１５ｍ、や白山（御前峰）２５０２ｍに登った。九州の山なら大抵の山に登った。九州で一番高い山はと問うと、屋久島の宮之浦岳１９３５ｍ、宮之浦岳の登山は２泊が必要と言う。
話を聞きながら１週間に１０日降るという屋久島の熱帯雨林を行く末安さんの姿を思い描いた。登山服姿がよく似合う末安さんである。
ＬＰＧのコストダウン
ＬＰＧの喫緊の課題はずばり言ってコストダウンである。電気や都市ガスの競合エネルギーに伍して闘っていくには、卸も小売も一体になってその実現を図らねばならない。これは基本問題である。物流合理化によるローコスト化も頭では分かっていても実行を伴わないケースが間々ある。大企業に対する小企業集団の戦いなのだからＬＰガスの小売はまだ利幅があると悠長に構えていてはいけない。石油業界では２、３年前までリッター２０円以上利幅があったが、今や陥没地帯では逆ザヤもある。ＬＰＧの利幅が現状から２割、３割ダウンしたときどうなるかを考えねばならない。危機感を抱いて早くコストダウンに取り組まねばならない。
学習効果が大きい中津市営ガス
平成１２年暮れ、大分県・中津市が市営ガス事業を民間へ譲渡した。伊藤忠エネクスは６億円で落札、翌１３年４月から業務を引き継いだ。引き受け時の中津市営ガスの売上高は約４億円。都市ガス（５Ｂ＝４５００ｋｃａｌ）の供給世帯３３００、簡易ガスなどＬＰＧ供給２４００世帯、中津市の総世帯の２０％強であった。中津市は国際港湾都市計画が進んでおり、さらにダイハツ工業の新工場が平成１６年までに市内に完成する予定である。関係者だけで第１期１０００人、２期２５００人が増える。同ガス事業の譲渡条件には２０１０年までに１３Ａ化することもうたわれている。伊藤忠エネクスの都市ガス事業参入は中津市が初めてで、都市ガス事業の学習効果を重く見ている。ＬＮＧ供給ソースについても伊藤忠商事をも加えたグループ全体の総合エネルギー政策の一環として都市ガス事業買収を実現したものである。末安さんは、中津市ガスの採算は長いタームで見なければならぬが、たいへん勉強になったと言う。
今年１０月からディーゼル車の規制がはじまる。ＬＰＧ車やＣＮＧ車への転換、ＤＰＦ（粒子状物質減少装置）の取り付けがディーゼル車の持ち主に求められる。そんなこともあってＬＰＧ車は伸長した。全国的には平成１３年１１月を境に前年同月比増加に転じて昨１４年１１月には、全国ベースでタクシー、自家用、貨物、特殊、乗合等合計２８万９千２９８台、九州の同時期のＬＰＧ車数は、沖縄の１万台を含めると４万９千台余であるから一割経済という九州の経済指標をはるかに超えている。
ここにきて九州ではＬＰＧ車導入にさらに拍車がかかった。それは官民一体となって環境にやさしい車の普及促進を図ろうと「九州クリーンエネルギー自動車導入検討会」が発足したことである。同検討会の当面のテーマは、@クリーン自動車の情報提供Aインフラ情報の提供Bインフラ拡充C中古車市場創成D自動車ディーラーの取り組み促進E導入インセンティブの付与などである。当面福岡、北九州をモデル地区とすることも決めた。
（※注１＝ＬＰＧ車を低公害車として認知して指定している自治体は、首都圏の七都府県、京阪神の六府県市などがある。※注２＝昨年グリーン購入法の見直しでＬＰＧ車が政府調達の指定品目となったが、厳しい条件が付されて該当車は「クラウンセダンＬＰＧ」と「コンフォートセダンＬＰＧ」の２車種のみで、改造車は対象ではない。その故に自治体がＬＰＧ車を低公害車に指定する意味は大きい）。
末安さんは、九州経済産業局の環境資源部長・渡辺道明氏の言葉「エコアイランド九州を実現するのにＬＰＧ車の貢献から始めよう」を引いてこの対談を結んだ。
プロパン・ブタンニュース２００３／３／３ ナリケンがゆく ウェーブ・風 話題と肖像画
